大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)734号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士赤司友輔の上告理由第一点について

賃貸人が自己使用の必要上賃貸借の解約申入をする場合でもそれだけでは借家法一条ノ二にいう正当の事由とはならないのであつて賃貸人側に存する家屋使用の必要性と明渡によつて害される賃借人の住居の安全とが当事者双方に存する諸般の事情から比較考慮されて初めて決せられるのである、そして他人が賃借居住中の家屋を自ら居住する目的で買受けた者のなす賃貸借の解約申入は賃貸人の変動さえなければ害されることのなかつた賃借人の居住の安全を害す結果となるのであるからかかる解約申入の正当事由の有無を判断するに当つては固より当事者双方に存する諸般の事情が比較考慮されるのであるが賃借人の居住の安全が保障されるかどうかの点が特に充分に考慮されなければならないことは云うまでもないところである、原判決は上告人は本件家屋の買受に際し被上告人が右家屋に賃借居住中であることを知りながら被上告人について家屋明渡の意思があるか否かを全然確めないのみならずその後現在に至るまで被上告人に対し移転先の提供等本件家屋明渡後における被上告人の住居の安定の保障について考慮を払つた事跡は全然存しない事実を確定し右事実を本件解約申入につき正当事由の有無を判断する一事情としてその他の事実と共に考慮した上正当の事由がないと判断したものであつて所論のように上告人に対して被上告人の住居の安全を保障する責任を負荷させた趣旨でないことは原判文上明らかである、そして右認定の事実は本件解約申入につき正当の事由の有無を判断するにつき上告人側に存する事情として考慮することを妨げるものではないから原判決は正当であり論旨は理由がない。

同第二点及び第三点について

上告理由第二点は原判決の事実の認定を非難するに帰する。同第三点において上告代理人は原判決は本件家屋において被上告人が料理店営業を始めることを認容していると主張するが右は原判決は被上告人の生計の実状の一事情として述べているに過ぎないものであつて、之を以て、原判決が賃借人の権限を不当に解釈したものと言うことはできない。何れも法令の解釈に関する重要な主張を含むものとは認められない。

よつて民訴四〇一条、同九五条、同八九条により裁判官全員一致の意見で主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例